投稿者: dai0813

  • [第10話]コロナショック。資産も仕事も止まった、それでも積立を止めなかった理由

    投資を始めてしばらく経った頃。

    あの日は突然だった。

    ニュースが騒がしくなり始めた。

    コロナウイルス。

    都市封鎖。

    世界同時株安。

    最初は、どこか他人事だった。

    でも、数日後。

    証券口座を開いた瞬間、

    空気が変わった。

    数字が、明らかに違う。

    マイナス。

    それも、これまでとは桁が違う。

    数%じゃない。

    数十万単位で減っている。

    一瞬、思考が止まった。

    「え?」

    何度も更新する。

    変わらない。

    むしろ、下がる。

    テレビは不安を煽る。

    リーマンショック級。

    世界恐慌。

    経済停止。

    正直に言う。

    怖かった。

    本気で、やめようかと思った。

    今ならまだ傷は浅い。

    これ以上減る前に売るべきじゃないか?

    頭の中で声がする。

    「守れ」

    「逃げろ」

    「現金が一番安全だ」

    トイレに入るたび、株価をチェックした。

    当然、真っ赤だ。

    でも、もっと怖かったのは――

    相場だけじゃない。

    社会全体が止まった。

    経済が止まった。

    そして、

    僕の仕事も止まった。

    自営業には直撃だった。

    売上が読めない。

    入金が減る。

    先が見えない。

    貯金はある。

    でも、

    家族の生活はどうなる?

    この状況で、さらに投資を続ける?

    入ってこない現金。

    減っていく評価額。

    二重の恐怖だった。

    ――

    でも、今振り返ると

    僕はある意味、守られていた。

    当時の資産バランス。

    現金700万円。

    株式150万円。

    投資を始めたときに決めた

    「現金は半分以上残す」

    というルール。

    そして今は、

    「最低1000万円は現金で残す」

    これが大きかった。

    もしフルポジションだったら。

    もし余裕資金を超えていたら。

    あの精神状態で、

    積立を続けられただろうか。

    たまたまだったのかもしれない。

    でも、

    勉強して決めたルールが

    僕を支えていた。

    点だった知識が、

    この瞬間、線になった。

    ――

    それでも怖かった。

    夜、眠れない日もあった。

    朝起きて、まず口座を開く。

    また減っている。

    仕事中も、どこか落ち着かない。

    それでも――

    積立は止めなかった。

    むしろ、こう思った。

    「同じ商品が安くなっている」

    怖い。

    でも、逃げない。

    続ける。

    それだけを決めた。

    数ヶ月後。

    相場は少しずつ戻り始めた。

    あれだけ真っ赤だった画面が、

    徐々に色を変えていく。

    あのとき、売っていたら。

    あのとき、積立を止めていたら。

    今の自分はいない。

    コロナショックで学んだこと。

    投資は、知識の勝負じゃない。

    “覚悟”の勝負だ。

    そしてもう一つ。

    このコロナショックは、

    僕の投資人生の中で

    確実に“スキルが上がった期間”だった。

    暴落の相場に居合わせるのと、

    外から眺めているのとでは、

    天と地の差がある。

    あの恐怖の中で続けた経験が、

    僕の投資の土台になった。

    あの日から、

    僕は本当の意味で

    「市場の中にいる人間」になった。

    そして最後に、これだけは強く言いたい。

    これから投資を始める人へ。

    許容範囲を超えるな。

    余裕資金を超えた瞬間、

    それは投資じゃない。

    ギャンブルになる。

  • [第9話]初めての含み損。理屈が通用しなかった日

    初めて買った。

    「よし、これで俺も投資家だ」

    そう思った数日後――

    下がった。

    評価額がマイナスになった。

    たった数%。

    でも、心は大きく揺れた。

    「やっぱり早すぎたか?」

    「もっと待てばよかった?」

    「今やめた方がいい?」

    頭では分かっている。

    長期。分散。積立。

    勉強したはずだ。

    下落は“普通”だと知っていた。

    でも、

    実際に自分のお金が減ると、

    理屈は簡単に吹き飛ぶ。

    800万円あっても、

    マイナス表示は普通に怖い。

    スマホを何度も開く。

    評価額を確認する。

    下がってる。

    また見る。

    また下がってる。

    そのたびに、心も少し下がる。

    そこで気づいた。

    僕はまだ、

    「値動き」に支配されている。

    投資を始めたつもりだった。

    でも、本当の勝負はここからだった。

    やめるのは簡単。

    積立を止めるのも簡単。

    でも、あのとき思い出した。

    1年間、勉強した理由。

    無知でいるのが怖かったからだ。

    値動きが怖いから始めたんじゃない。

    未来を変えたいから始めた。

    だから――

    何もしなかった。

    売らなかった。

    止めなかった。

    ただ、続けた。

    そして気づいた。

    投資の一番の敵は、

    相場じゃない。

    自分の感情だ。

    ここで逃げなかったことが、

    後の自分を助ける。

    あの日の「続けた」は、

    未来の自分への投資だった。

  • [第8話]初めて“買う”ボタンを押した日

    1年間、勉強した。

    朝1時間。

    夜1時間。

    本も読んだ。

    動画も見た。

    仕組みも理解した。

    頭では、分かっていた。

    長期。分散。積立。

    投資はギャンブルじゃない。

    でも――

    「理解」と「実行」は別だった。

    証券口座を開設する。

    入金する。

    そして、あの画面。

    “買付”ボタン。

    指が止まった。

    本当にこれでいいのか?

    下がったらどうする?

    タイミングが悪いんじゃないか?

    1年間も勉強したのに、

    最後はやっぱり怖かった。

    800万円を持っていても、

    最初の一歩は震える。

    銘柄。

    金額。

    積立設定。

    何度も確認した。

    そして――

    押した。

    たったそれだけ。

    でも、僕にとっては

    人生の大きな一歩だった。

    金額は大したことない。

    でも意味は大きい。

    「お金に働いてもらう」

    人生で初めての瞬間だった。

    押した後、不思議と落ち着いていた。

    増えるか減るかよりも、

    「逃げなかった自分」

    それが嬉しかった。

    投資を始めたというより、

    無知から逃げるのをやめた日だった。

    ここから、

    本当の資産形成が始まった。

    そして、ここは強く伝えたい。

    証券口座の開設で心が折れる人は、本当に多い。

    スタート地点に立つ前に、やめてしまう。

    書類が分からない。

    用語が難しい。

    設定が不安。

    そこで止まる。

    でも今は違う。

    調べれば、情報はいくらでもある。

    分からなければ、証券会社に電話すればいい。

    聞けばいい。

    動けばいい。

    実際、僕の友人もそうだった。

    最初は0。

    0〜20は自分でやった。

    途中で止まった。

    少し手伝った。

    30になった。

    また止まった。

    もう一度やった。

    70になった。

    そして100までやり切った。

    今では2年間、積立を続けている。

    30年後が楽しみだと笑っている。

    一番ダメなのは、

    一歩も進んでいないのに

    「難しそう」と言うこと。

    0のまま、悩み続けること。

    少しでも変わりたいなら――

    勉強だ。

    行動だ。

    最初の一歩は、

    知識じゃなく、覚悟で決まる。

  • [第7話]一番のギャンブルは、無知な自分だった

    気づけば800万円になっていた。

    もちろん、仕事には全力だった。

    毎日13時間働いた。

    15万。20万。25万。30万。35万。

    努力すれば結果に繋がる。

    結果に繋がればお金が残る。

    自営業の世界はシンプルだ。

    やった分だけ、

    残るお金が変わる。

    だから僕は、

    「稼いで、貯める」ことだけをやってきた。

    投資はしなかった。

    正確に言うと、

    しなかったんじゃない。

    拒否していた。

    親からは何度も言われていた。

    「投資は早く始めたほうがいい」

    でも当時の僕には、

    投資はギャンブルにしか見えなかった。

    上がるか、下がるか。

    当たるか、外れるか。

    そんな不確実なものに、

    自分の汗で稼いだお金を入れる意味が分からなかった。

    守っていたわけじゃない。

    戦略があったわけでもない。

    ただ単に、知らなかった。

    マネーリテラシーがなかった。

    怖かった。

    それだけだ。

    800万円を超えた頃、

    時代は完全に情報社会に入っていた。

    YouTube。

    SNS。

    投資系の発信。

    それまで触れてこなかった世界が、

    一気に目の前に広がった。

    そこで初めて思った。

    「あれ、俺、まずいかもしれない」

    貯めることはできた。

    でも、増やすことを何も知らない。

    インフレ。

    複利。

    資産運用。

    言葉は知っている。

    でも、説明はできない。

    800万円あっても、

    頭の中は6万円の頃と変わっていなかった。

    その事実が、怖くなった。

    そこで初めて、

    僕は“学ぶ側”に回った。

    朝1時間。

    夜1時間。

    毎日、勉強した。

    仕事は今まで通り全力。

    その上で、さらに時間を作った。

    正直、楽じゃない。

    眠い日もあった。

    やりたくない日もあった。

    でも焦っていた。

    「知らないまま金額だけ増える」ことが、

    一番のリスクだと気づいたからだ。

    1年間、ひたすら学んだ。

    仕組みを理解するまで。

    自分の言葉で説明できるまで。

    そしてようやく思えた。

    投資はギャンブルじゃない。

    無知な自分が、

    一番のギャンブルだったんだ。

    そこで初めて、

    投資を始める決意をした。

    お金を増やすためじゃない。

    無知のままでいたくなかったからだ。

  • 【第6話】100万円は分岐点じゃなかった

    100万円を超えた日。

    通帳の数字を何度も見返した。

    6万円から始めた自分が、

    ようやく“6桁”を抜けた。

    正直、少しは世界が変わると思っていた。

    でも、何も変わらなかった。

    朝は同じ時間に起きる。

    仕事も同じ。

    生活も同じ。

    変わったのはひとつ。

    「減るのが怖い」という感覚。

    それまでの僕は、

    増やすというより“貯める”ことだけを考えていた。

    でも100万円を超えた瞬間から、

    “失う怖さ”が出てきた。

    もし急な出費があったら?

    もし事業がうまくいかなかったら?

    もしこれが一気に減ったら?

    100万円は安心のはずだった。

    なのに、

    初めて“守らなきゃいけないもの”ができた感覚になった。

    お金は安心をくれると思っていた。

    でも実際は、

    新しい不安も連れてくる。

    そこで初めて気づいた。

    金額が増えても、

    心が強くなるわけじゃない。

    守る力がなければ、

    数字はただの幻だ。

    100万円はゴールじゃなかった。

    ようやく、

    「次を考えられる位置」に立っただけだった。

    今なら思う。

    100万円は、正直いけるときがある。

    仕事が忙しくてお金を使う暇がない月。

    予想外の出費がない月。

    ギャンブルのパフォーマンスが良い月。

    流れが噛み合えば、

    届くこともある。

    だから僕にとって、

    100万円は分岐点じゃなかった。

    本当の分岐点は、

    たぶん500万円だと思っている。

    偶然では届かない額。

    勢いだけでは維持できない額。

    100万円は“通過点”。

    ここから先、

    本当の守備力が試される。

    そして僕は、

    次の問いに向き合うことになる。

    守るだけでいいのか。

    それとも、攻める準備をするのか。

  • 【第5話】6万円の僕が最初に覚えた武器は「支出管理」だった

    6万円からの再スタート。

    正直に言えば

    投資なんて考えられる状態じゃなかった。

    「どうやって増やすか」より先に、

    「どうやって減らさないか」だった。

    まずやったのは、家計の可視化。

    逃げずに、全部書き出した。

    家賃。

    携帯代。

    保険。

    サブスク。

    毎月なんとなく払っているもの。

    見たくなかった。

    でも、見た。

    そこで気づいた。

    俺は稼げていないんじゃない。

    “漏れていた”。

    ここで出会った言葉がある。

    支出管理。

    地味で、面白くない言葉。

    でも、僕はこの言葉が好きだ。

    一番最初に動かしたのは携帯。

    大手キャリアから格安SIMへ。

    月7000円削減。

    年間で約8万円。

    たった一つの決断で、

    “もう一人の自分”が毎年働いてくれる感覚だった。

    次に保険。

    「不安だから」という理由だけで入っていた。

    本当に必要か?

    営業トークじゃなく、

    自分で調べた。

    削った。

    サブスクも見直した。

    惰性で続けていたもの。

    見栄で払っていたもの。

    なんとなくの安心料。

    全部ゼロにはしない。

    でも、“目的が説明できない支出”は止めた。

    ここで気づいたことがある。

    収入を上げるのは時間がかかる。

    でも支出を止めるのは、今日できる。

    多くの人は「増やす」から考える。

    俺は逆だった。

    まず“守備力”を上げた。

    固定費を落とし、

    積立2万円が“根性”じゃなく“構造”で続く状態にした。

    すると、不思議なことが起きる。

    月2万円だった積立が、

    3万円、4万円、5万円と増えていく。

    これは収入が劇的に増えたからじゃない。

    生活水準を上げなかったからだ。

    ここが一番大事だと思っている。

    家族ができた。

    共働きになった。

    次男が生まれ、4人家族になった。

    でも生活費は4倍にはならない。

    むしろ共働きは強い。

    少なくとも“お金の面では”。

    収入が増えても、

    支出管理の癖は消えなかった。

    増えたら使う、ではなく

    増えても上げない。

    その差が、

    時間と一緒に膨らんでいく。

    6000万円を超えた今でも、

    生活水準はほとんど変わらない。

    歯磨きみたいなものだ。

    やるかやらないか、ではない。

    やるのが当たり前。

    資産形成は、才能じゃない。

    センスでもない。

    支出管理を“続けられるかどうか”。

    6万円のときにやったのは、

    未来を増やすことじゃない。

    “未来を減らさない習慣”を作ったことだった。

    そしてたぶん、

    この地味な回が一番、

    6000万円に効いている。

  • 【ガチ保有】イエローハットの決算に納得!個人的大好き、最強の優待株

    車を愛する人なら誰もが知る、黄色い帽子の看板。私が絶大な信頼を寄せて持ち続けているイエローハットから、最新の決算が届きました。

    今回の内容を一言でいうと、冬の寒さや物価高といった厳しい環境の中でも、着実に利益を積み上げ、株主を大切にする姿勢を改めて見せてくれた、非常に満足度の高いものでした。

    稼ぐ力の底堅さを実感

    決算の中身を見ると、タイヤやオイルといった車のメンテナンスに欠かせない消耗品がとてもよく売れています。最近は冬の訪れが遅かったり、雪が少なかったりと、冬用の製品を売るには難しい状況もありました。それでも、最終的な利益をしっかりと伸ばしてきている点に、経営の安定感と現場の底力を感じます。

    私たちが生活していく上で、車の維持費は決して安くありません。そんな中で、しっかり利益を出しつつ、私たちのカーライフを支えてくれる存在は、投資先としても非常に頼もしく映ります。

    他では代えられない「実用性満点」の優待

    そして、私がこの株を愛してやまない最大の理由が、あまりにも実用的すぎる株主優待です。

    まず、全国の店舗で使えるお買い物割引券。車検やタイヤ交換など、まとまったお金がかかる時にこの割引券があるだけで、お財布の負担がグッと軽くなります。

    さらに嬉しいのが、お店で直接もらえる「ウォッシャー液」の引換券です。車に乗る人なら必ず使う消耗品が、株主というだけで定期的に手に入る。この「痒いところに手が届く」ような気配りこそが、多くのファンを引きつけて離さない魅力です。

    私がこの銘柄を応援し続ける理由

    もちろん、投資である以上は将来の不安がゼロではありません。しかし、イエローハットは長年にわたって安定した配当を出し続け、私たち株主を裏切らない歩みを続けてきました。

    2026年の春からは、優待をもらうために「一年以上の継続保有」が必要になるというルールの変更もありますが、これは裏を返せば、腰を据えて長く応援してくれるファンをより大切にするという、会社からのメッセージだと受け取っています。

    車がある限り、そして私たちの安全な走りを支えてくれる限り。私はこれからも、この「黄色い帽子」の心強いパートナーと共に、豊かなカーライフを歩んでいきたいと強く思っています。

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  • 【ガチ保有】ヤーマンの決算にため息。それでも私が「含み損」に耐えて応援する理由

    美容を愛する多くの人から支持されているヤーマンから、最新の決算発表が届きました。

    私自身、期待を込めてずっと持ち続けている銘柄の一つですが、今回の内容は、正直に申し上げて「かなり厳しい」と言わざるを得ない、少し切ない結果となりました。

    決算で見えた「苦しい裏側」

    今回の発表で最も気になったのは、思うように利益が伸び悩んでいる点です。

    これまで好調だった海外での販売にブレーキがかかってしまったことや、新しい製品を世に送り出すための広告宣伝費、研究開発のコストが重くのしかかっています。その結果、本業で稼ぐ力が以前よりも弱まっているという厳しい現実を突きつけられました。

    私を含め、株を持っている多くの人がいま「含み損」という、投資額よりも資産が減ってしまっている状態にあります。画面を見るたびに少し心がチクッと痛む、そんな日々が続いています。

    それでも手放せない「魔法の優待」

    では、なぜこんなに厳しい状況でも私は株を売らずに持ち続けているのか。

    その最大の理由は、やはり他では代えがたい「株主優待」の素晴らしさにあります。ヤーマンの優待は、自社公式通販サイトで使える豪華な割引券。これを使えば、最新の美顔器や高機能な化粧品が、驚くほどお得に手に入ります。

    さらに嬉しいのが、株を長く持ち続けるほど、その優待の内容がどんどん豪華になっていくという「継続保有」の仕組みです。含み損の痛みがあっても、「次はこの美顔器をもらおう」という楽しみがあるからこそ、不思議と耐えられてしまうのです。

    私がこれから期待すること

    もちろん、優待だけで満足しているわけではありません。ヤーマンには日本を代表する美容のプロとして、再び世界を驚かせるようなヒット商品を生み出し、業績を立て直してほしいと強く願っています。

    投資である以上、元本が減るリスクは常にあります。ですが、自分が使って良いと感じる製品を作っている会社を応援し、その恩恵を優待で受け取るというスタイルは、私にとっての「心の美容液」でもあります。

    今は少し冷たい雨が降っていますが、いつか再び業績が晴れ渡り、株価が戻ってくる日を信じて。私はこれからも、優待で届く製品を愛用しながら、じっくりとこの「美容のパートナー」を支えていく覚悟です。

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  • 第3話|うまくいった日と、捨てた焼き鳥

    今日は、ちょっとだけうまくいった。

    バイト4日目。

    昨日までとは違った。

    動きが少しわかる。

    次に何をすればいいか、ほんの少し見える。

    声も出せた。

    社員さんとも自然に話せた。

    「頑張ってますね」

    その一言が、地味にうれしかった。

    今日、60代後半くらいのお客さんの部屋に入ったときのこと。

    デンモクの使い方がわからない様子だった。

    「民謡歌いたいんだけど、どこにあるかわかる?」

    正直、僕はカラオケにあまり行かない。

    民謡なんて歌ったこともない。

    しかも機種はジョイサウンド。

    探し方が正解だったのかもわからない。

    本当は一度報告すべきだったのかもしれない。

    それでも、とりあえず必死に探した。

    曲名検索。

    ジャンル検索。

    思いつく限り触ってみる。

    数分間、部屋の中で一緒に画面を見つめた。

    結局、見つからなかった。

    「ごめんなさい、ちょっと見つからなくて…」

    そう言うと、

    「いいよいいよ、ありがとうお兄ちゃん」

    そう言ってくれた。

    その一言で、救われた。

    僕の働いているカラオケは持ち込みOK。

    テーブルの上には焼き鳥が山ほどあった。

    「これ、1串あげるよ」

    とっさに断った。

    「いや、大丈夫です」

    でも何度も勧められた。

    断り続けると、

    なんとなく空気が変わりそうだった。

    じゃあ、ありがとうございます。

    受け取った。

    でもその場では食べなかった。

    仕事中だし、

    さすがにまずいかなと思った。

    そのまま持ち帰り、社員さんに聞いた。

    「こういう場合ってどうすればいいですか?」

    答えはシンプルだった。

    「残念だけど、破棄してください。」

    会社のルールだから仕方ない。

    頭ではわかっている。

    でも、正直つらかった。

    僕は食品ロスが大嫌いだ。

    以前、仕出しの仕事をしていたからなおさらだ。

    食べられるものを捨てるのが、どうしても嫌だ。

    本音を言えば、

    あの部屋で「うめー!」って言いながら

    くれた本人の前で食べたほうがよかったのかもしれない。

    最初から、もっと強く断るべきだったのか。

    それとも、会社のルールを優先するのが正解なのか。

    今日はうまくいった日だった。

    動けた。

    褒められた。

    昨日より確実に前に進んだ。

    それでも最後に、

    焼き鳥をゴミ箱に入れた瞬間が、頭に残っている。

    仕事って、

    自分の正義だけでは動けない。

    でも、人としての感覚も失いたくない。

    明日はもう少し、

    うまく立ち回れるだろうか。

  • 何もできない3日目

    カラオケ店で働き始めて3日目。

    正直、まだ何もできない。

    怒られたわけじゃない。

    ミスをしたわけでもない。

    でも、「何もできない自分」がきつい。

    受付に立っても、

    先輩の動きを目で追うだけ。

    声を出すタイミングも、

    フォローの仕方もわからない。

    今日、高校生のカップルが来店した。

    受付は、面接も担当してくれた上司。

    この店舗で2番目に偉い人だ。

    真面目で、固くて、マニュアル通り。

    仕事はきっちりしている。

    でも、柔らかさはない。

    最近のカラオケは、

    免許証の裏の番号確認や

    アプリ登録が必要らしい。

    正直、僕もまだ仕組みを完璧には理解していない。

    高校生の2人は、

    「え、裏の番号まで?」という顔。

    苦笑いというより、呆れたような笑いだった。

    「そこまで見せなきゃダメなんですか?」

    その気持ち、わからなくもない。

    自分が高校生でも、

    免許証の裏番号まで確認されるのは少し嫌だと思う。

    上司は淡々と、

    「こちらがないとご案内できません。」

    マニュアル通りの説明。

    間違ってはいない。

    でも、温度はなかった。

    空気は少しずつ悪くなり、

    最後に高校生の一人が、

    「お前は北朝鮮か!」

    と吐き捨てて店を出ていった。

    言い方はよくない。

    それは間違いない。

    でも、もし自分が対応していたらどうだっただろう。

    「ごめんね、これ全国チェーンの決まりなんだ。

    ちょっと面倒だよね。でもこれがないと入れなくて…」

    そう一言あったら、

    あそこまで空気は尖らなかったんじゃないか。

    マニュアルは大事だ。

    でも、人間味も大事なんじゃないか。

    まだ3日目の新人が、

    偉そうなことは言えない。

    それでも、今日の出来事は頭に残っている。

    もし自分があの高校生の立場だったら、

    どんな言い方をされたら納得できただろう。

    そして、もし自分が店側なら、

    どこまで寄り添うだろう。

    あなたなら、どちらの立場でどう動きますか。

    僕はまだ何もできない。

    でも、

    「どうありたいか」だけは忘れたくない。

    明日は、

    もう少しだけ、自分の言葉で話してみようと思う。