24歳のとき、子どもができたと知らされた。
その瞬間、胸が熱くなった。
「俺、父親になるのか」って。
40歳になった今でも、あの瞬間の空気は忘れられない。
でも次の瞬間、頭の中に浮かんだのは祝福じゃなかった。
家賃いくらだ?
今の給料でやっていけるのか?
貯金……いくらあった?
ゼロだ。
心臓がドクンと重くなった。
嬉しいはずなのに、背中に冷たい汗が流れた。
正直に言う。
あのときの僕は、父親になる準備なんて何ひとつできていなかった。
⸻
中卒、貯金ゼロの現実
当時の僕は中卒。
高校はすぐに辞めた。理由は単純で、遊びたかったからだ。
その後は職場を転々とした。
長続きしない。怒られれば辞める。気に入らなければ辞める。
「若いんだからなんとかなる」
本気でそう思っていた。
たどり着いたのが工場の期間社員。
流れ作業の毎日。3年半働いた。
月収は約30万円。
半年ごとに満了金が60万円。
数字だけ見れば悪くない。
むしろ当時の自分は「けっこう稼いでる側」だと思っていた。
でも、金は残らなかった。
財布の中身はいつも数千円。
通帳の残高は、見たくない金額。
給料日前、コンビニATMの前で残高を確認し、
「はぁ…」と小さくため息をつく。
あれが現実だった。
⸻
金の使い方がすべて間違っていた
酒は好きだった。
仕事終わりの一杯が楽しみだった。
キャバクラにも行った。
「若いうちに遊ばなきゃ損だ」と本気で思っていた。
パチンコも打っていた。
勝てば気分がいい。負ければ「次こそ」と思う。
結局、勝っても負けても金は消える。
満了金が入ると、気が大きくなる。
「また半年働けば入るし」
その繰り返し。
未来なんて考えていなかった。
⸻
「この状態で父親になれるのか?」
妊娠が分かった夜、
薄暗い部屋でひとり、通帳の数字を見つめていた。
残高はほぼゼロ。
画面の数字がやけに冷たく見えた。
「この状態で父親になれるのか?」
何度も自分に問いかけた。
出産費用はいくらかかる?
病院代は?
オムツ代、ミルク代、保険は?
計算すればするほど、足りない。
周りは大学や専門学校を出て、安定した会社で働いている。
それに比べて僕は中卒。資格もない。貯金もない。
「俺、終わってるかもしれない」
本気でそう思った。
⸻
布団の中で感じた恐怖
夜、電気を消して布団に入る。
隣から聞こえる穏やかな寝息。
守らなきゃいけない存在が、もういる。
なのに僕は、何も持っていない。
給料はある。でも資産はない。
仕事はある。でも保証はない。
もし契約が終わったら?
もしケガをしたら?
未来が急に怖くなった。
それまでの僕は「なんとかなる」で生きてきた。
でも、子どもができた瞬間、
その言葉は通用しなくなった。
なんとか“しなきゃいけない”。
⸻
このままじゃダメだ
嬉しいはずなのに、不安の方が大きい。
それが情けなかった。
父親になるのに、覚悟より先に恐怖がくる自分が嫌だった。
でも、ひとつだけはっきりしたことがある。
逃げられない。
もう自分ひとりの人生じゃない。
通帳を閉じたとき、初めて本気で思った。
「このままじゃダメだ」
あの夜が、僕の人生の分岐点だった。
あの夜、僕は初めて「お金と向き合う」と決めた。
それが、月2万円の貯金から始まるとは、このときの僕はまだ知らなかった。
コメントを残す